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神戸地方裁判所 昭和33年(わ)1332号 判決

被告人 浜辺熊雄

主文

被告人を禁錮三月に処す。

但し、この裁判確定の日から、二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、神戸市生田区海岸通四丁目一一番地に事務所を有する港湾荷役業株式会社田本組に人夫として雇われ、昭和三二年一二月頃からは、FG14―2フオークリフトトラツク(特殊作業用自動車)の運転手宮脇保の補助者として同人差支のとき代つてこれを運転する業務に従事していたものであるが、昭和三三年五月一〇日午後四時二〇分頃、神戸税関構内である同区新港町神戸港第一突堤C倉庫一三番出入口から、同突堤京橋二号倉庫西側岸壁まで、輸出用椎葺入木箱八箱(一箱三〇キロ入)を、右トラツクの前部、パーレツトと称する荷台の上に積載して、時速約七キロメートルの速度で、北進していたが、右トラツクの運転席から前方の見透しは、右の木箱が、着席した被告人の目の高さより少し高いくらいに積み重ねてあつたため、十分でなかつたのであるから、かような場合、自動車運転者としては、前方を十分に注視し得るように積荷の状態を変えるか、又は自分の位置や姿勢を動かして、たえず前方を注視警戒し、危険の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにもかゝわらず、これを怠り、人通りの閑散な港湾施設内であり、いままで運転中に事故を起したことがないので、危険はないものと軽信して、前方注視を怠つた過失により、進路にあたる右C倉庫北側路上砂地のところで、遊び戯れていた艀船夫小田春芳の長女小田春美(当時四年)及び同二男小田春光(当時一年)の両名を発見し得ず、両名を右トラツク前部のバーレツトと称する荷台の下に巻込んで、車体の下敷にし、よつて、小田春美に頭蓋骨折、骨磐骨折、小田春光に頭蓋底骨折等の傷害を負わせ、それぞれ、その場で、即死せしめたものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法律の適用)

被告人の判示行為は、刑法第二一一条、罰金等臨時措置法第二条、同法第三条第一項第一号に該当するところ、右行為は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段、同法第一〇条第三項により、犯情が重いと認める小田春美に対する罪の刑をもつて処断することにし、禁錮刑を選択したうえ、被告人を主文第一項の刑に処し、被告人が無免許で判示の特殊作業用自動車を運転し幼児二人をひき殺した罪は重いが、被告人は制規の運転者が早退したため上司の命によりその運転を始めたものであつて、たまたま貨物の船積を急がされ多量の荷物を積載したため運転を誤つた事情、事故現場は、税関構内であつて、人通りの閑散な所であり、子供らの遊び場所ではないが、おりあしく、艀の船夫の妻が幼児二人を連れて上陸し、現場附近で遊ばしているところへ被告人の運転する自動車が通りかゝつて本件の事故を起したものであつて、酌量すべき事情があること、被害者両名の親との間には、慰藉料三五万円を支払つて円満に示談が、成立しており、かつ同じ港湾関係者の立場から被害者側において寛大な処分を望んでいること等の情状により、刑法第二五条第一項を適用して、主文第二項のとおり、右刑の執行を猶予することにする。

(裁判官 山崎薫)

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